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APECビジネストラベラーカード(ABTC)、出張者目線で取得する価値はある?

ビザ申請の省略や空港の優先レーンといったメリットから、対象国・申請条件・費用・取得方法まで解説。

APECビジネストラベラーカード(ABTC)、出張者目線で取得する価値はある?
Photo via Unsplash — used under free license

空港での入国手続き、できれば早く終わらせたいと誰もが思うはず。そんな時に役立つものとして、海外出張によく行く人の間で密かに人気があるのが、APECビジネストラベラーカード(ABTC)です。

ABTCは便利な一方、申請条件があり、渡航先や出張頻度によっては十分なメリットを得られないこともあります。申し込む前に、制度の対象や手続きだけでなく、自分の出張スタイルに合うかを確認することが大切になります。

この記事では、ABTCの仕組み、利用できる国・地域、申請条件や方法を整理し、コストと手間をかけて取得する価値があるケースについても分かりやすく解説します。

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この記事は、2026年8月時点の外務省とAPECの公式情報をもとに作成しています。ABTCの申請手数料、処理期間、渡航先ごとの入国条件は変更される可能性があるため、実際に申請・渡航する前には公式情報も確認してください。

APECビジネストラベラーカード(ABTC)とは

APECビジネストラベラーカードは、APEC(アジア太平洋経済協力)域内を頻繁に移動するビジネス関係者の短期商用渡航を円滑にする制度です。英語名の「APEC Business Travel Card」を略してABTCと呼ばれます。

日本では外務省が、有効な日本国旅券を持ち、所定の条件を満たすビジネス関係者に交付しています。APECの公式案内では、主な機能を次のように説明しています。

  • 事前承認を受けた参加国・地域へ、個別にビザを申請せず短期商用目的で複数回渡航できる
  • 参加国・地域の主要国際空港で、入国審査の専用・優先レーンを利用できる
  • 有効期間は原則5年間

ただし、ABTCはパスポートの代わりにはなりません。渡航時には有効なパスポートとABTCの両方が必要です。また、カードを持っているだけですべてのAPEC参加国・地域へ入国できるわけではなく、渡航先から事前承認を受けていることが前提になります。

日本ではバーチャルABTCが交付される

日本では2024年4月から、従来のプラスチックカードに代わって、スマートフォンやタブレットのアプリに表示するバーチャルABTC(VABTC)が交付されています。

有効期間は原則として交付から5年間です。ただし、注意点として、交付時点でパスポートの残存有効期間が5年未満なら、ABTCの有効期限もパスポートと同じになります

ABTCを取得する価値はある?向いているケースと向いていないケース

ABTCの価値は、出張回数だけでは決まりません。実際に取得を検討している、あるいは悩んでいる方は、次の3点から考えてみてはいかがでしょうか。

  1. 渡航先:APEC域内、とくにABTCによるビザ免除の効果が大きい国・地域へ行くか
  2. 出張頻度:今後数年間に何回程度利用しそうか
  3. 時間価値:ビザ申請や入国審査にかかる時間をどの程度減らしたいか

申請時に13,000円の手数料がかかりますが、必要なのはそれだけではありません。顔写真や証明書類をそろえ、オンライン申請後に収入印紙を貼った手数料納付書を郵送する必要があります。勤務先にも、在職証明書や貿易・投資実績を示す資料などの準備を依頼しなければならない場合があります。

一方、承認済みの国・地域へ繰り返し出張するなら、個別のビザ申請費用や準備時間を減らせる可能性があります。急な出張に対応しやすくなることや、入国審査の待ち時間を抑えられることにも価値があります。

ABTCと空港のファストトラックは同じではない

空港によっては、保安検査や入国審査の専用レーンを利用できる「ファストトラック」サービスがあります。また、ファーストクラス・ビジネスクラスの利用者や航空会社の上級会員に、優先サービスが付く場合もあります。

ただし、ファストトラックは世界共通の一つの制度ではありません。対象となる手続き、利用条件、料金は空港や航空会社によって異なります。たとえばヒースロー空港の公式Fast Trackには、出発時の保安検査用と到着時のパスポート審査用があり、予約した空港・時間帯で専用レーンを使うサービスとして提供されています。入国要件やビザを免除する制度ではありません。

違いを整理すると、次のようになります。

比較項目 ABTC 空港の有料ファストトラック 航空会社の優先サービス
主な目的 APEC域内の短期商用渡航を円滑にする 特定空港での各種待ち時間を短縮する 対象便の空港手続きを優先する
ビザ申請の省略 事前承認済みの完全参加国・地域で可能(ロシアを除く) できない できない
入国審査の優先レーン 対応する主要空港で利用可能 サービス内容による 空港、航空会社、会員資格による
利用範囲 承認済みのAPEC参加国・地域 予約した空港・渡航時が中心 対象航空会社や対象便が中心
主な条件 日本国旅券、商用渡航の必要性など 予約・料金支払いなど 搭乗クラスや会員資格など

つまり、特定の空港で一度だけ待ち時間を短縮したい人には、有料ファストトラックのほうが手軽な場合があります。対してABTCは、APEC域内へ継続的に出張し、ビザ申請と入国審査の両方の負担を減らしたい人に向く制度です。

ABTCが向いているケース

次のような場合は、申請コストに見合う可能性が高くなります。

  • 中国や東南アジアなど、APEC域内へ頻繁に出張する
  • 個別のビザ申請が必要になる渡航が多い
  • 入国審査の混雑がよく発生する空港を利用することが多い
  • 今後数年間、現在の勤務先で海外業務を続ける予定がある
  • パスポートの残存有効期間が十分にある
  • 急な海外出張が発生する

とくに、ビザが必要な国・地域へ何度も渡航する人は、金銭面だけでなく、申請書類を準備する時間や出張日程を調整する負担も減らせるのでおすすめです。

ABTCが向いていない、または取得を急がなくてよいケース

一方、次のような場合は、ABTCのメリットが限定的になります。

  • APEC加盟国への海外出張が多くない
  • 出張先が米国やカナダに偏っている
  • ビザ免除国への出張が中心で、入国審査の待ち時間も大きな問題ではない
  • 特定空港で一度だけ優先レーンを使いたい
  • 直近の出張だけを目的に申請しようとしている
  • パスポート更新、退職、転職の予定が近い

米国とカナダは、ABTC制度の一部だけに参加する「暫定参加メンバー」です。ABTC所持者は主要空港の専用・優先レーンを利用できる場合がありますが、両国は渡航者に対する事前承認や、ABTCによるビザ・入国許可の免除には対応していないようです。そのため、米国のESTAや、カナダに空路で入国する際のeTAなど、通常の入国手続きが別途必要です。

ここでいう「暫定」は、近いうちに完全参加へ移行することが決まっているという意味ではなく、ABTC制度上の参加区分です。この2か国が出張の中心なら、優先レーンを利用できるだけでも申請の費用や手間に見合うか、よく検討する必要があります。

また、外務省による国内審査が終わっても、希望する渡航先の承認が間に合うとは限りません。数週間後の一度の出張だけを目的に申請するのは、確実性に欠けるので、通常のビザや渡航手続きを利用するほうが現実的でしょう。


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ABTCを利用できる国・地域と滞在期間

APECには21の国・地域が参加し、そのうち米国とカナダを除く19の国・地域がABTC制度に完全参加しています。

完全参加しているのは、次の国・地域です。

  • オーストラリア
  • ブルネイ
  • チリ
  • 中国
  • 香港
  • インドネシア
  • 日本
  • 韓国
  • マレーシア
  • メキシコ
  • ニュージーランド
  • パプアニューギニア
  • ペルー
  • フィリピン
  • ロシア
  • シンガポール
  • 台湾
  • タイ
  • ベトナム

ただし、完全参加している19の国・地域すべてを自動的に利用できるわけではありません。ABTCを利用できるのは、個別審査で承認され、アプリに承認済みとして表示された国・地域に限られます。該当する国・地域へは、短期商用目的で原則ビザなしで渡航できます。

なお、上記の国・地域の中で、日本人が渡航する際にビザが必要となる国は、オーストラリア、インドネシア、パプアニューギニア、ロシアです。これらの国では原則、ABTC所有者であれば別途ビザやETAが不要です。ただし、ロシアについては物理カードタイプのみで、日本発行のバーチャルABTC(VABTC)は受け付けていないようです。

滞在可能日数は60日または90日が基本

APECの公式案内では、事前承認を受けた完全参加国・地域での短期商用滞在は、国・地域に応じて最長60日または90日とされています。

ただし、実際に許可される期間は入国審査当局の判断です。渡航先の制度変更もあり得るため、長めの滞在を予定している場合は、APECまたは渡航先当局の最新情報を確認してください。

米国・カナダ・ロシアは扱いが異なる

米国・カナダ:ABTC制度の暫定参加メンバーです。主要空港の専用・優先レーンは利用できる場合がありますが、事前承認やABTCによるビザ・入国許可の免除には対応していません。米国のESTAや、カナダに空路で入国する際のeTAなど、通常の入国要件を別途満たす必要があります。

ロシア:外務省の案内では、ロシアはバーチャルABTCによる入国を認めていません。日本で新規交付されるのはバーチャルABTCのため、ロシアへ渡航する場合は入国査証が必要です。

このように、米国・カナダ・ロシアでは、ABTCだけで入国できるわけではありません。渡航前に、ビザや渡航認証を含む各国の入国要件を確認してください。

ABTCで認められる活動と利用上の制限

ABTCで認められるのは、短期間で、現地での収入や報酬を伴わない商用活動です。外務省の申請概要では、主に次の活動が挙げられています。

  • 商談
  • 業務連絡
  • 市場調査
  • 投資のための契約締結
  • 納品後の、報酬を伴わないアフターサービス

観光目的での利用は想定されていません。また、現地で報酬を受ける活動や事業運営には、一般に就労ビザなど別の在留資格が必要です。

工場での検品・技術指導は別途ビザが必要な場合がある

商談に付随する品質確認やグループ会社との業務連絡であっても、生産設備や工場敷地内に立ち入り、検品・技術指導を行う場合は注意が必要です。国・地域によっては、ABTCで認められる短期商用の範囲外と判断され、別途ビザが必要になる場合があります。

ABTCで対応できるかどうかは、訪問目的の名称だけでなく、現地で実際に行う作業の内容によっても変わります。設備の操作、現場作業、従業員への指導などを予定している場合は、渡航前に渡航先の大使館またはABTC担当チームへ確認しましょう。

ABTCの申請条件と必要書類

日本でABTCを申請するには、次の基本条件を満たす必要があります。

  1. 有効な日本国旅券を所持している
  2. 申請書や提出書類に虚偽の記載がない
  3. 犯罪歴がない
  4. 外務省が定めるビジネス関係者の要件のいずれかに該当する

一般企業の経営者・従業員では、過去1年間または直近の決算期に貿易・海外投資実績がある企業等に所属し、その事業のために参加国・地域へ渡航する必要があることが主な要件です。取引金額の大小は問われません。

このほか、APECビジネス諮問委員会の関係者、所定の経済団体に所属する機関の経営者・従業員、災害復興に関係する貿易事業に従事する人なども対象となる場合があります。

必要書類は所属先によって異なる

一般的な新規申請で確認される主な書類は次のとおりです。

  • 6か月以内に撮影した顔写真
  • パスポートの顔写真ページの写し
  • 発行から6か月以内の在職証明書
  • 登記事項証明書
  • 貿易・海外投資の実績を示す資料
  • 会社案内など事業内容を確認できる資料

ただし、所属企業が所定の経済団体に加盟している場合、AEO事業者(貨物管理と法令遵守の体制について、税関の承認・認定を受けた貿易関連事業者)である場合、同じ企業から1年以内に新規申請実績がある場合などは、一部資料が免除されることがあります。必要書類は、外務省の申請書類一覧で申請者区分ごとに確認するのが確実です。

個人事業主も要件を満たせば申請できますが、必要書類が一般申請と異なります。申請前にABTC担当窓口(経済局アジア太平洋経済協力室ABTC班)へメールで問い合わせることをおすすめします。

ABTCの申請方法・費用・取得期間

日本のABTC申請はオンラインで行います。ただし、手数料の納付方法や返却条件には注意が必要です。

大まかな流れは次のとおりです。

  1. 必要書類を準備する
  2. 外務省のオンライン申請フォームへ入力し、書類を添付する
  3. 申請完了画面から手数料納付書を出力する
  4. 13,000円分の収入印紙を貼り、パスポートと同じ署名を記入する
  5. 申請から2週間以内を目安に、手数料納付書を外務省へ郵送する
  6. 日本の審査完了後、バーチャルABTCの交付通知を受け取る
  7. アプリへログインし、承認済みの国・地域を確認する

新規交付申請の手数料は13,000円です。オンライン決済には対応していないため、収入印紙を使います。審査で不交付になった場合や、申請を取り下げた場合でも、納付済みの手数料は返却されません。

詳しい入力・郵送手順は、外務省の「各種手続(詳細)」で確認できます。

国内審査の目安は15~20開庁日

新規申請の標準処理期間は、手数料納付書を外務省が受領した日から15~20開庁日です。オンライン申請を送信した日からではない点に注意してください。申請数や書類の不備などにより、これより時間がかかる場合もあります。

交付された日と、渡航先で使える日は同じとは限らない

ここがバーチャルABTCで特に理解しておきたい点です。

オンライン申請→ 手数料納付書の郵送→ 日本の審査→ バーチャルABTC交付→ 各国・地域による審査→ 承認された渡航先で利用可能

日本の承認後にバーチャルABTCが交付されると、他の参加国・地域による審査が始まります。各国・地域の承認状況はアプリへ随時反映されます。

他国・地域の審査時期はそれぞれの当局が決めるため、日本の外務省は完了時期を回答できません。したがって、国内審査が15~20開庁日で終わっても、次の出張先が同じ時期までに承認される保証はありません。

パスポートの残存期間が短い場合、他国・地域の審査で不承認になる可能性も指摘されています。ABTCを数年間使う予定なら、パスポートの更新時期も含めて申請タイミングを考えたほうがよいでしょう。

バーチャルABTCの使い方と出発前チェックリスト

渡航前にアプリへログインし、利用する国・地域が承認済みとして表示されているか確認します。入国審査では、次の2つを提示します。

  • 有効なパスポート
  • アプリに表示したバーチャルABTC

主要空港では、ABTC専用レーンまたは優先レーンを利用できます。ただし、レーンの設置状況は空港によって異なります。「ABTC」と表示されず、外交官や乗務員向けレーンと共用されている場合もあるため、見つからなければ空港職員へABTCを見せて確認しましょう。

外務省によると、日本国内では成田、羽田、中部、関西、新千歳、福岡、那覇の各空港にABTC専用または優先レーンがあります。一方、APECは全参加国・地域の対象空港一覧を公開していません。

出発前に確認したいこと

✔️ アプリに渡航先が承認済みとして表示されている

✔️ アプリの氏名・旅券番号が現在のパスポートと一致している

✔️ パスポートとABTCの両方が有効である

✔️ 渡航目的が短期商用の範囲に入っている

✔️ 米国、カナダ、ロシアなどの例外を確認した

✔️ スマートフォンやタブレットでABTCを表示できる

✔️ 端末の充電手段を用意した

✔️ 現地の就労ビザや滞在許可を持っている場合、ABTCを提示すべきか確認した

とくに、渡航先の就労ビザや滞在許可を持っている人は注意が必要です。ABTCを提示すると短期商用の在留資格が付与され、既存の在留資格に影響する可能性があります。該当する場合は、入国審査官へ既存の在留資格を説明するか、ABTCを提示しない判断も必要です。

ABTCに関するよくある質問

最後に、ABTCの申請や利用にあたって疑問になりやすい点を、Q&A形式で整理します。

年に何回出張すれば申請できますか?

日本の交付要件には「年○回以上」という一律の回数基準は示されていません。ただし、貿易・投資に関する事業のため、参加国・地域へ渡航する必要性が認められることが必要です。

個人事業主でも申請できますか?

要件を満たせば申請できます。ただし、一般の申請者とは必要書類が異なるため、外務省のABTC班へ事前に問い合わせる必要があります。

パスポートを更新したら、そのまま利用できますか?

更新前のパスポート番号が登録されたABTCは利用できません。条件を満たせば旅券番号変更による再交付を申請できる場合がありますが、氏名などの身分事項も変わった場合は新規申請が必要です。

退職・転職後も利用できますか?

申請時の所属機関を退職・転職した場合は、従来のABTCを継続利用できません。転職先で必要なら、改めて新規交付申請を行います。

ABTCと通常のビザを同時に持てますか?

外務省は、ABTCとビザを同時に申請・保有すること自体に特段の制限はないと案内しています。ただし、運用は国・地域によって異なるため、渡航先の大使館やABTC担当チームへ確認してください。

まとめ【渡航先・頻度・代替手段から取得を判断しよう】

ABTCは、APEC域内へ継続的に出張し、個別のビザ申請や入国審査の負担を減らしたい人に適した制度です。一方、米国・カナダやAPEC域外への出張が中心の場合や、一度だけ優先レーンを利用したい場合は、有料ファストトラックなどの代替手段も比較したほうがよいでしょう。

申請前には、自分が交付条件を満たしているか、パスポートの有効期間が十分か、希望する渡航先の承認を待つ時間があるかを確認する必要があります。申請手数料と準備の負担も含め、今後数年間にどの程度利用できるかを基準に判断してみてください。


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